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バイオデザインの魅力とメリット

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木阪 智彦

医学博士
学術・社会連携室産学連携推進部バイオデザイン部門 部門長/准教授
広島県医工連携推進員

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松浦 康之

修士(情報工学)
学術・社会連携室 共同研究講座講師

Q1

自己紹介をお願いします。

木阪先生

循環器内科医であり、広島大学 学術・社会連携室産学連携推進部バイオデザイン部門にて部門長と准教授を務めております。2013年にカリフォルニア州立大学ロサンゼルス校、2017年に広島大学を経て、2017年にインド ニューデリーにある全インド医科大学(AIIMS)のバイオデザインプログラム(School of International Biodesign iFellowship)に国際フェローとして参加して、バイオデザインを学んできました。

松浦 先生

広島大学 学術・社会連携室に所属し、共同研究講座講師を務めています。ソフトウェア技術者として大手国内総合家電メーカーグループで勤務した後、共同創業者としてウェアラブルコンピューターや医療系のデバイスを開発するベンチャー企業を立ち上げてCEOを務めました。会社を清算して、2018年に広島大学からインド ニューデリーにある全インド医科大学(AIIMS)のバイオデザインプログラム(School of International Biodesign iFellowship)に国際フェローとして参加し、バイオデザインを学んできました。

Q2

バイオデザインとは何ですか。

木阪先生

医療機器開発人材育成プログラムのことを指します。 バイオデザインは造語で、もともとはスタンフォード大学で始まった「バイオX」の1つとして、医療機器を開発する人材を育成するプログラムとして始まりました。すでに10数年の歴史があり、その始まりはスタンフォード大学とインドのコラボレーションでした。現在の大半はスタンフォードの流れを汲むものですが、日本で唯一広島大学はインドのバイオデザインを汲んでいます。

Q3

一般的な医療機器開発の手法と、バイオデザインの手法は何が違うのですか。

松浦 先生

ものを創る時、その考え方は2つに分けられます。1つはすでにある技術を活かしたり、組み合わせたりして、新しいものやサービスをつくる、シーズ発想です。もう1つはその反対側の考え方で、世の中で求められているけどまだ出来ていないことや問題を解決するために、新たな技術を開発したり、既存の技術を使って解決しようとしたりする、ニーズ発想です。 バイオデザインはニーズを捉えて、ものをつくるのが基本的な考え方です。ニーズをいかに見つけ出すかはデザイン思考の考え方やプロセスを使います。 ニーズの探し方は色々ありますが、バイオデザインでは、病院にて1〜2ヶ月間実際の診察や手術の現場を観察して、見つけ出した沢山の課題につながりそうなものの中から、課題の質や臨床的な背景情報を確かめたり、患者さんや医療現場へのインパクト、市場規模などを総合的に判断したりして、事業化できる可能性がより高いニーズを特定することから始めます。 医師、技術者、デザイナー、起業家など多くの異なる背景を持った人を集めた多様性のあるチームで、それぞれの専門家の視点を取り入れながら、医療機器開発を進めていきます。

木阪先生

私たちが特に重視しているのは、人が人のためにものを創るということです。シーズから発想すると、その技術や機械を使うことにこだわってしまうという反省があります。患者さんの痛みや不満、さらには患者さんの家族、医療機器を使う医療従事者に寄り添うことが大切です。

Q4

バイオデザインでの医療機器開発に適する技術や製品はありますか

松浦 先生

バイオデザインでの医療機器開発をスタートする時には、使う技術や開発しようとする製品に制限はありません。自分たちの基盤となる技術や特徴を持っている方が、広く医療現場を見て課題を見つける。その中で”これをなんとかしたい”と心の底から思う課題にしぼり、自分たちの技術を適用して課題を解決できればそれでいいし、現在持っている技術だけでは難しければ、新しく開発したり他の企業と組んだりするなど、様々な方法で解決することが出来ます。 バイオデザインでは、始めた時には最終的にどんなものできるかを予想することは難しいですが、プロセスに従ってフィルタリング等を行うことで、最終的にはユーザーの求めるものができるはずです。

木阪先生

患者さんに届くもの(=必要としているもの)をつくるには、患者さんの声を聞き、言葉にし、試作し、社会実装するプロセスがあります。私たちのプログラムでは、それらを10〜12ヶ月の期間で行おうとしていましたが、今後はインドと同じように数カ月〜6ヶ月にしようとしています。現在の医療機器開発は平均8年もかかっていますが、社会の変化の速さに合わせていく必要があると考えています。

Q5

これまでにどのような成果がありますか

木阪先生

バイオデザインに所属する前から循環器内科の内科医として、広島大学附属病院の心不全センターに勤務していました。広島では心不全のため、毎年7〜10万人が溺れるような苦しみの中で亡くなります。日本で心臓移植の症例に関わることは稀で、ステントやペースメーカー後の心不全治療に関わっていました。その苦しみを減らしたいと思い、移植の盛んなアメリカで3年半勤務しました。そこで視点を変えて、移植後の方が行う心臓リハビリテーションを研究し、日米で企業と合同で特許を取得しました。日本の病院の1割に普及することを目標にして、リハビリ器具であるエルゴメーターを開発し、目標を達成しました。バイオデザインに出会う前でしたが、患者さんの痛みに注目したことが強みと捉えています。 2017年のフェローシップでは、身体に貼り付けて血液(血糖値等)を測るデバイス(メディカルタトゥー)を特許申請し、インドでの知財化と事業化を行いました。しかし、会社は1年未満で会社を閉じざるを得なくなりました。私自身は会社で失敗していますが、どうして、どのように失敗したのかを伝えられると思います。 インドで傷を治すデバイスを開発する「Inochi Care」という会社の顧問をしています。傷に貼り付けて、治癒に適した環境を整え、治癒を早めるデバイスです。

松浦先生

2018年に、インドで2つの特許を申請しました。1つ目は、尿路カテーテルによる感染症を防ぐデバイスです。現在は、インドで補助金を獲得することができたので、スタートアップの立上げを含めて事業化を進めているところです。日本でも普及させたいので、NEDOのTCP(Technology Commercialization Program)2019に参加して、認定VC賞や審査員特別賞を受賞しました。3年後までには製品として完成させて、インド等で販売することが目標です。2つ目は、交通事故などで外傷を負って体の一部を欠損した場合や乳房再建などのために身体の一部を切り取って移植する「皮弁移植」という手術があります。その際に血管を併せて縫合するため、術後3〜4日間は医師が頻繁に目視や触診等で移植部分の血流を確認しています。非常に手間のかかる作業なので、この問題を解決したいと思っています。

Q6

日本でどのような活動をしていますか

木阪先生

さきほど紹介したエルゴメーターのような医療機器の他、診療と人材育成を行っています。診療は、臨床医として心不全を恐くない病気にしたいという自分のモチベーションになります。人材育成では、ひろしまバイオデザインフェローシップコースの他、日本医師会と連携した4ヶ月で特許を取得する人材育成プログラムを指導しています。私が指導したチームが最優秀賞を獲得し、知財を取得して共同開発を進めています。インドで活動した医師やエンジニアは珍しいので、自分の経験を次のプログラムに生かしたいと考えています。

松浦先生

ひろしまバイオデザインのフェローシップコース(12ヶ月)では、企業や医療機器開発を行いたい個人を対象に、私たちがインドで学んだことを教えています。これと並行して、広島大学大学院で講義や演習という形で、学生や社会人の方にもバイオデザインを教えています。また、2019年度にAMEDの「次世代医療機器連携拠点整備等事業」に採択されましたので、医療機器開発を行いたい企業のためにニーズを収集できる機会を提供しようとしています。主に広島大学病院で現場観察を行い、ニーズを探して医療機器開発につなげる取り組みです。さらに、私達の持つインドとの繋がりを活用して、日本だけではなく新興国であるインドでも現場観察を行う機会を提供できる様に準備を進めています。 インドと日本では、もちろん医療環境は異なりますが、共通する医療現場ニーズも多くあります。さらに、十分な医療機器があり診療体制が整った日本の医療現場では、ニーズは存在していてもそれが見えにくいことがあります。インドでの現場観察が可能となれば、新興国特有のニーズだけでなく、日本でも必要とされる潜在的なニーズの発見につながると思っています。

木阪先生

医療機器開発のチームには、『士農工商』4パターンの人が必要です。『農』は医師のような医療従事者です。患者さんに毎日接するので、目の前の患者さんを助けようとたくさんの要望が出てきてあれこれ足そうとします。一方、『工』であるエンジニアは技術を研ぎ澄ますので、無くても良いものや『農』の仕事を引き算してくれます。技術者の視点は次のまだ見ていない人を助けるためには必要です。さらに、ビジネスをするには『商』が掛け算をします。しかし、0に何を掛けても0になりますので、私たちが0を1にしなければなりません。最後は『士』が、つまり行政がこと作りをして、資金を出して機会をつくります。このように、産学官のものづくり人づくりとことづくりが相まって広島大学のバイオデザインが進んでいます。

Q7

ひろしまバイオデザインの特色は何ですか

木阪先生

キーワードは痛みだと思っています。1つ目は、長い歴史で言うと75年前に原爆がこの地に落ちてたくさんの方が傷付きました。現在は医療費が削減されており、そのことが患者さんの痛みにならないように活動しています。2つ目は、泥くさい臨床現場観察から痛みに基づいたニーズを見つけることです。3つ目は、5〜10年後の広島県内の産業にチャンスが減ることにより、新たな痛みが発生する可能性があります。その痛みを減らすために、広島県の医療機器産業クラスター形成事業にも参加しています。これら3つのレイヤーの異なる痛みが私たちのバックグラウンドです。

Q8

なぜインドなのでしょうか

木阪先生

シンプルに、インド人は私たちと同じアジア人だからです。誰かの為に何かをする「利他主義」は東洋的な考え方であり、アメリカでは必ずしも多数派ではありませんでした。 また、インドに行った初日、教授に「人は何にお金を払うのか」と問われました。私は「幸せになるため」と答えましたが、その教授の考えは違いました。特にインドでは「人は痛みに対してお金を払う」そうです。現場には患者さん、家族、医療従事者に様々な痛みがあり、それはどの国でも共通することが沢山あります。日本人は真面目なので我慢してしまうこともありますが、それをきちんと医療機器やサービスとして形にすれば、グローバルなマーケットで戦えます。それを安く、早く解決する方法を教えてくれるのがインドだと思います。

Q9

どのような医療機器を開発していますか

木阪先生

末期癌の患者さんの中に、胸水が溜まる方がいます。その段階になると、6ヶ月以内に8割の方が亡くなります。胸水を抜くためには、機械と繋がった状態になるのでベッドから動くことができません。孫が生まれても会えなかったり、家族の結婚式に出られずに亡くなったりした患者さんもいます。それは昔からある仕組みのせいです。そこで、機械を無くす方法を考えて、患者さんが出歩ける方法を開発し、特許申請に協力しました。

Q10

どのような人や企業に参加して欲しいですか

松浦先生

困っている人たちの課題を、自分の持つ技術やその他の技術を使って解決したいと思っている方々ですね。フェローシップであれば、新しい挑戦をしたいと考えている若い学生さんなども歓迎です。従来の医療機器の延長や改良だけではなく、医療現場に眠っている課題を発見、解決して、新しいものを創りたいと思っている人や企業に参加して頂けると嬉しいです。